一般社団法人 日本機械学会関西支部

(社)日本機械学会関西支部

第84期定時総会見学会参加記録
 
日時: 2009年3月18日(水) 13:30~17:00
見学先: ダイハツ工業(株)  滋賀(竜王)工場
参加人数: 48名

概要
 ダイハツ工業は「世界中の人々に愛されるスモールカーづくり」を使命にして事業展開して来たが、世界的に高まる地球環境問題への関心や、社会の仕組みの変化、消費者の価値観の多様化などから、今後ますますスモールカーへの期待が高まっていくと考え、顧客に驚きと感動を与える魅力的なクルマづくりに挑戦され続けている。またデザイン・設計・実験・生産技術の各部門がデータを共有する事により、開発初期段階でのつくりこみ精度を高め、開発期間を短縮し、品質や生産性の向上に繋げている。本見学会では、滋賀(竜王)工場を見学すると共に、次世代を拓く最先端の技術開発、また自動車業界でも最先端のデジタル開発プロセスをご紹介頂いた。これまでの支部見学会の中で今回は最多数の参加者となったが、学生の参加者も多く(約1/3)、有意義な見学会となった。
 まず2年連続軽販売台数No.1の車作りの現場である、ムーブとタントの混合生産ライン(組立と最終完成品検査)を見学した。また排水処理等の環境保全設備や「緑豊かな滋賀、美しい琵琶湖を次世代へ引継ぐため、地域から愛される工場づくりに努める」という環境方針にも、人々に愛される車づくりの基本姿勢を実感した。
 次に、先端技術開発部の田中エグゼクティブ・テクニカル・エキスパートより、最先端の技術開発のご紹介を頂いた。
 (1) インテリジェント触媒   貴金属複合ペロブスカイト型酸化物の自己再生型触媒
排ガス中の一酸化炭素や窒素酸化物等を除去するために触媒を用いるが、ダイハツ工業はペロブスカイト型酸化物にパラジウムを複合させた自己再生型触媒を、世界で初めて開発した。エンジンは空気/燃料比が一定幅で電子制御されており、排ガスが酸化還元変動を繰り返しているが、この触媒のパラジウム原子は酸化雰囲気ではペロブスカイト型酸化物に固溶し、還元雰囲気では析出して微粒子となる(結晶構造を変えて自己再生し、触媒活性を維持)。
本画期的技術は英国の科学誌“Nature”に掲載され、また第1回新機械振興賞を受賞した。
 (2)アニオン交換型燃料電池   ヒドラジン(N2H4)を燃料に使った燃料電池システム
陽イオン交換膜(カチオン交換膜)ではなく,陰イオン交換膜(アニオン交換膜)用い、水素イオン(H+)ではなく、水酸イオン(OH-)が空気極から燃料極に移動して発電する。交換膜がアルカリ性で、従来電池の様に強い酸性ではないため、高価な白金触媒を使う必要がない。  またセパレータなどの部材も低コスト化できる。
 田中さんは、物事の本質を突き詰めながら新技術・新製品の開発に挑戦する技術者の基本的な考え方・姿勢を明快に話されたので、参加者(技術者や学生)に非常に参考になった。
 次に、吉竹課長からデジタル開発プロセスの事例として、最適化手法を用いた動弁系CAEと吸排気系の脈動低減のお話があった。動弁系の要求性能は高出力特性(ハイリフトカム)と低メカロス(低バネ力)である。摩擦係数や減衰特性等、高感度だが実測困難な14の設計要因をパラメータ同定して、バネ定数を30%低減した上で、ジャンプやバウンズのない高出力特性を得た。
 最後に、企画段階から当日の対応まで中心になってご協力頂いた芹澤課長を始め、滋賀テクニカルセンターの三谷センター長、工務部の簑原室長、先端技術開発部の田中エグゼクティブ・テクニカル・エキスパート、吉竹課長に、厚く御礼を申し上げます。

   日本機械学会関西支部 企画幹事
   宮内 直(クボタ)